太田 誠 2

【静岡 人語り】

元駒沢大学野球部監督、太田誠さん(78)

2014.9.5 02:14

 ■「5年で日本一」約束果たす、長嶋氏ら数多くの出会いも



昭和46年4月、駒沢大野球部監督として初めてのシーズンが始まりました。

前年秋の東都リーグ戦で1勝も挙げられずに最下位に沈み、入れ替え戦でからくも残留を決めた駒大は、34歳の新人監督に再建を託してくれたのです。

就任から開幕までわずか1カ月あまりでしたが、闘争心がなければ勝てないと猛練習で選手の奮起をかき立てました。

同時に大コンバートを決行、「とにかく4年生がやれ」と出場機会の少なかった最上級生を多く起用した。

この春は4年生ではプロ野球・ヤクルトで活躍する杉山重雄、下級生では近鉄の栗橋茂、広島の木下富雄らが前年と見違えるような活躍をみせ、7勝3敗1分けで2位に浮上します。


 手応えをつかんだ選手たちに、夏場はさらなる猛練習を課しました。

素手のノックもそのひとつで、打球を包み込むように捕球する感覚を磨くことが目的でしたが、監督との1対1のけんか腰のやり取りで選手たちとの意思の疎通も図ったのです。

同時に西日本を中心に高校野球の強豪校を回りました。

選手の発掘とともに、名物監督に指導者としての心得について教えを請うたのです。

こうした活動もあり、翌年春には後に巨人入りした「駒大三羽ガラス」こと中畑清、平田薫、二宮至ら有望選手が入部してきました。

46年秋は惜しくも優勝を逃しての2位で、「5年で日本一」という恩師・藤田俊訓学監との約束に向けて手応えを感じた1年でした。


 明けて47年のシーズンは中央大との激戦となります。

中大は静岡商出身で中日の中心選手となる藤波行雄、阪神入りする佐野仙好、大洋入りしたエース田村政雄らが顔をそろえた大型チームで、力でどんどん押す横綱野球。

一方の駒大は甲子園経験者は少ないものの過酷な練習でたたき上げた雑草集団。

春こそ中大に押し切られて2位でしたが、秋には直接対決で勝ち点を落としたものの、最終週に中大がよもやの連敗。横綱が土俵際でうっちゃりを食らったおかげで、リーグ戦初優勝を思わぬ形で勝ち取りました。


 その後もリーグ優勝やAクラスが続き、常勝軍団としての土台は徐々に築かれていきました。

そして50年春、二宮主将、中畑副主将を中心とした駒大は悲願の日本一を目指して全国のリーグ戦優勝校が覇を競う大学選手権に出場します。

準決勝で島岡吉郎監督率いる東京六大学の明治大を3-2で下した駒大は、決勝で大阪商大と対戦。

後に大洋入りする大型右腕・齊藤明雄の重いストレートと落差の大きなカーブにてこずり、両校無得点のまま延長へ。

果てしないゼロ行進が続いた十四回表、駒大は途中出場した山本文博が左翼線に決勝打。

齊藤投手の大会唯一の失点で優勝を決め、初優勝をもぎ取ったのです。

日本一を報告すべき藤田学監はこの年2月にがんで逝去、賢崇寺の墓前で手を合わせたときは重い約束を果たした安堵(あんど)感に包まれました。


 大学野球の監督生活にはさまざまな方々との出会いがあります。

巨人の長嶋茂雄終身名誉監督が予告なしで私の家を訪れたのは大学選手権を制した50年秋のこと。

当時、巨人監督だった長嶋氏は中畑のドラフト3位指名のあいさつに加え、二宮、平田に入団してもらいたいと話した。

この年の長嶋氏は現役引退直後に監督となったものの、巨人創設以来初の最下位となった。

「私は最下位チームの監督です。日本一のチームから選手が、日本一のエネルギーがほしいのです」。

大スターが過去の栄光や体裁にとらわれず、チームの強化のために必死に語る。

その姿に「この人に恥はかかせられない」と承諾しました。


長嶋氏とはこの突然の訪問以来、交流が続きます。

35年間には数多くの指導者や選手と思い出深い出会いに恵まれました。


=つづく


【プロフィル】太田誠


 おおた・まこと 昭和11年5月20日、浜松市福塚(現浜松市南区福塚町)生まれ。南部中学で野球を始め、浜松西高校から駒沢大学へ。東都リーグで首位打者2回、社会人野球・電電東京(現NTT東京)で8年間プレー、46年から駒大監督に就任。35年間でリーグ戦501勝393敗19分け、優勝はリーグ戦22回、大学選手権5回、明治神宮大会4回。DeNAの中畑清、広島の野村謙二郎両監督や新井貴浩、良太(阪神)、梵英心(そよぎえいしん、広島)、古谷拓哉(千葉ロッテ)、増井浩俊(日本ハム、静岡高出身)ら多くの人材を送り出した。


読んだ本

申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。
天国までの百マイル (朝日文庫)
暴露:スノーデンが私に託したファイル
永遠の旅行者(下)
驕れる白人と闘うための日本近代史
震える牛 (小学館文庫)
リヴィエラを撃て〈上〉 (新潮文庫)
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